親なるもの 断崖 2巻

曽根富美子『親なるもの 断崖』2、宙出版、2015


『親なるもの 断崖』の2巻。こっちは「第2部」ということになっていて、1巻とはかなり話の筋立てが異なっている。登場人物は、1巻とかぶっているのだが、梅子(芸妓ではなく娼妓になって、「アカ」の活動家と大恋愛になってから捕まって引き離された方)の娘、道生がこの巻の主人公。梅子が出てくるのは初めの部分だけ。また、芸妓になった武子は、エピソードとしてしか出てこない。

話は昭和11年輪西町(室蘭)から始まる。梅子は、1巻で、「アカ」の中島と別れさせられた後、地元の日本製鐵に勤める大河内と結婚する。大河内は、日鉄社員で財閥の関係者なのに、工場幹部ではなく職工の仕事をしているという変な人。しかし娼妓と結婚したということで、地元の人々の梅子や道生に対するイジメはものすごい。結局、梅子は姑に「おまえがいなければ、娘は無事に育てられる」と言われて、家出してしまう。

その後は太平洋戦争が始まり、日鉄は戦争景気で大繁盛する。小学生になった道生は、戦争反対を家でも学校でも大声で主張してまたイジメにあっている。

室蘭の日鉄製鉄所も、戦争末期にはアメリカ軍の艦砲射撃で壊滅。道生の祖母(梅子の姑)は、これで死んでしまう。

武子が置屋「富士楼」を乗っ取ったり、道生が家出した後の母の消息を、母と一緒に暮らしていた子供たちから聞いたりというエピソードはあるのだが、昭和33年に売春防止法が施行され、幕西遊郭の名前はなくなる。それと同時期に道生は小学校の教員になった後、結婚して、終わり。


この巻も、十分緊張感のある話にはなっているのだが、1巻とは別の話になっていて、そこがちょっと受け入れがたい。1巻は幕西遊郭の話だが、2巻は日鉄と大河内家の話になっていて、うまくつながっていない。芸妓の武子はストーリーから浮いてしまっているし、幕西遊郭は戦争末期には営業停止になり、話の中心にはいない。

2巻通して読むと、大ドラマになっているし、話の緊張感は十分にあるのだが、1巻のキャラをほとんど捨ててしまったのは惜しい。作者はどうしても、「戦争反対」を道生に言わせたかったのだろうが。

巻末に作者あとがきと、主な参考資料が載っていたのはよかった。室蘭を一度訪ねる機会があればいいのだけれど。