親なるもの 断崖 1巻

曽根富美子『親なるもの 断崖』1、宙出版、2015


電子版で読んだので2015年発行となっているが、もとは1991年に出ている。舞台は昭和初期の室蘭。話は青森の寒村から室蘭の幕西遊郭に売られてきた4人の娘の人生。

基本、これはプロレタリア文学。実際に、師範学校の学生でプロレタリア運動に関わって特高に捕まる男の話も出てくる。しかし、プロレタリア文学女工は主人公になれても、芸妓、娼妓はあまり主人公にはならないから、そこはちがうところ。

当時の室蘭は日本製鋼所、つまり兵器工場でもっていた町なので、満州事変以後の戦争で儲かっており、幕西遊郭もその恩恵で繁盛していたところ。しかし、特に娼妓の生活は悲惨なもので、体がすりきれるまで客をとらされ、逃げようとすれば半殺しの目にあわされる。

4人のうち一番年長の松恵は16歳だが、いきなり客をとらされ、その晩に首吊り自殺。この時点で相当おどろいたが、この巻が終わる時点で一番年下の道子も死んでしまう。この調子で娼妓、芸妓たちの過酷な生活(客になる工員たちも厳しいのだが)が続く。

娘たちの描き方、特に芸妓、娼妓の生活が細かくかかれていて、読ませる作品。置屋の女将、番頭、女衒も筋の通った人物になっていてすきがない。

1巻(第1部)は昭和9年で終わっているので、太平洋戦争まで話は続くだろう。密度の濃い話なので、2巻もたのしみ。