止まった時計

松本麗華『止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記』、講談社、2015


著者は、麻原彰晃の三女・アーチャリー。1983年生まれなので、今年32歳になる。大学入学で訴訟を起こしていたことなど、断片的なことしか知らなかったので、著者がどういう人物で何をしてきたのかは、この本で初めて知った。麻原の四女である松本聡香の著書は未読。

麻原らが逮捕されて教団が壊滅したのが1995年。この時点で著者は12歳だったが、教団で逮捕されていない唯一の「正大師」だったために、教団関係者(その中には、著者の母親、松本知子も含まれる)に担がれていた。子供だったので利用しやすいということと、教団内部で階級制が非常に大きな意味があったことがうかがえる。

この本は著者の言い分なので、これだけでは何とも言えないことも多いが、麻原と著者が接見をはじめた2004年ごろから、麻原の様子の記述は具体的で説得力がある。この時点で麻原は、廃人同様で、外部とコミュニケーションが取れる状態ではなかったということ。拘禁反応なのか、別の理由によるのかはわからないが、ほぼ生ける屍である。著者の記述からして、とても詐病とは思えない。

著者は、子供時代をオウムの中で過ごし、その後いきなり社会に放り出されてまともに学校に通うことができず、支援者の助力でやっと通信制高校から文教大学を卒業するところまでは行ったが、大学院への入学とカウンセラーになりたいという希望はほぼ断念しているようだ。現在どうやって生計を立てているのかは不明。

オウム内部での人間関係や、幹部逮捕後に残された人たちの動向に関する記述を読むと、教団幹部たちは麻原逮捕後の教団の主導権をめぐってかなり激しく争っていて、まったく団結できる状態ではないと思える。しかし現実には、上祐の「ひかりの輪」を除けば、信者の多くはアレフにとどまっているので、この辺はよくわからない。関係者の手記と観察者の記録をぼちぼち読んでいくしかない。