近代中国史

岡本隆司『近代中国史』、ちくま新書、2013


タイトルは非常に大部の本を想像させるが新書。内容は『明代から人民共和国成立までの中国経済史』である。しかし、内容はこのタイトルにきちんと合っている。単なる経済史だけでなく、政府権力の性格、官民関係、中間団体としての宗教や結社の役割など、広い範囲で中国史を論じている。

現代中国のことを知るのに歴史のことがわからないのではまずく、大部の概説書にいきなりかかるのは躊躇していたが、この本は自分にピッタリ合う本。日本人が書いているので、日本社会と中国社会の比較もできていて、日本社会から安易に中国のことを類推すると大間違いになることがわかりやすく書かれている。

とにかく政府(中央)が民間に手を突っ込むことがむずかしく、税金を取れない。正確にいえば、住民の所得から直接税をとることができない。従って、少数の大企業や富裕層に対する課税に依存していて、一種の請負制のようなもの。

政府は少数の大口納税者に依存しているので、彼らの支持を獲得することが重要。官僚制は汚職と個人蓄財から切り離せない、見かけの租税以上に徭役が大きな負担で、政府は労働力はタダだと思っており、記録には残らないから、民はどんどん絞られる。それを免れるには科挙に合格して士大夫になる必要があり、一族で士を出すことに多くの人が血道をあげるような社会。

官と民をつなぐのが郷紳で、これが元官吏か科挙合格者。これが地元、地縁でつながった中間団体を形成する。宗族、幇、会などが果たしている機能はだいたい同じ。

銭と銀の関係、対外開放で中国経済がどのように変わったか、軍閥の経済的性格など、勉強になったことが多い。参考文献リストもきちんとしている。できれば、この本がカバーしていることと、共産党政権以後の中国史をつなぐ本も紹介してほしかったが。