薄幸日和

グレゴリ青山『薄幸日和』、小学館、2014


著者は基本的にはコミックエッセイを書く人だが、これはストーリーつきのマンガ。とはいえ、マンガの舞台は著者の地元の京都で、地域ネタがたくさん入っているので、コミックエッセイとそれほどテイストは変わらない。

おはなしは、京都の高校に東京から転校してきた主人公が、「薄井幸子」というクラスメートと友だちになり、京都市内の「薄幸スポット」めぐりをしていくというもの。

一番印象の強いエピソードは、この二人が、水上勉『五番町夕霧楼』のゆかりのスポットをめぐる話。これは小説も映画も見ていないのだが、五番町は実在の地名で、今の千本中立売近くになる。ここはむかしむかし行ったことがあるだけで記憶がぼんやりしているところだが、町のそこかしこにかつての遊郭の名残があるところ。千本日活(ポルノ館)やら、昔の投げ込み寺やら、喫茶店「マリヤ」やら、食指をそそる場所がてんこ盛りで、これは次に京都に行った時に必ず行こうと決意。

他も、縁切り神社の安井金比羅宮とか、鴨川べりの土手に並ぶカップルとか、「幸薄いネタ」を訪ねて歩いている。最後に取材した時のエピソードがついていて、昔ヤクザだったおじいさんに実際の五番町の話を聞いている。

数十年前の近過去など、知っている人がいなくなってしまえばあっという間に忘れ去られるもの。あまり思い出したくないような元遊郭の歴史はなおさらだ。千本通そのものが不況でシャッター通りになってしまっているので、名残のカスも、そんなに長くは残らないだろう。

とりあえず「五番町夕霧楼」の本と映画(1963年版)をなんとしても手に入れなければ。いとありがたし。