太平洋戦争のロジスティクス

林譲治『太平洋戦争のロジスティクス 日本軍は兵站補給を軽視したか』、学研、2013


太平洋戦争(と日華事変)の日本陸海軍補給組織小史、という内容。300ページあまりのボリュームで、陸軍と海軍両方の補給組織、輸送部隊、自動車、鉄道、馬匹、船舶を含めた機材、作戦(マレー作戦とインパール作戦)を全部書いているので、突っ込みがやや浅い部分がある(特に作戦の部分)。しかし、兵站、補給関係の組織、編成についての資料が多く引用されているので、その部分は勉強になる。

著者の問題意識は、「兵站軽視」と「兵站の失敗」は違うので、陸海軍は失敗はしたが、最初から兵站を無視していたわけではないというもの。西太平洋からビルマまでの戦線で数百万人が動く戦争をやっていたのだから、いくらなんでも兵站のことを何も考えていなかったということはない。兵站の組織について現在の時点でわかることをまとめておこうという著者の意図は好感がもてる。

読んでいくと、兵站の組織は十分ではなかったが、太平洋戦争の前までは破綻するレベルではなかった。これは相手が非力な中国だったからということ、機械化が不十分で火力も足りない陸軍だけの戦争だから、兵站の負担が軽かったこと、自軍の兵站線に対する攻撃も相対的に薄かったことによる。

しかも陸軍の機械化は、日華事変の中で予算が膨張したためにやっと進んでいたこと、従って、事変がなければ陸軍の兵站ははるかに貧弱なレベルににしか届かなかったと書かれている。海軍は兵站線保護については、台湾以北、日本と大陸の間のことしか考えていない。

また兵站機材の貧弱さ以上に、兵站のマネジメントができていなかったことも指摘されている。総力戦の経験がなく、何でも泥縄でやっていた日本はどうにもならなかったということ。

兵站の基本的な考え方、組織はよくわかる。列強との比較もできる範囲でされている。最後のケーススタディ(作戦)の部分は、拡大しすぎた兵站需要に供給がまったく追い付いていなかったので失敗した、という結論。目新しい発見ではないが、やはり重要なことではある。