無人暗殺機ドローンの誕生

リチャード・ウィッテル(赤根洋子訳)『無人暗殺機ドローンの誕生』、文藝春秋、2015


これは名著。新聞の書評でも2紙くらいとりあげていたが、技術革新の物語であり、組織変革の物語であり、戦争の方法の革新についての物語であり、なにより人間ドラマになっている。著者は、アメリカの航空、軍事記者。関係者への膨大なインタビューと資料の蓄積で出来上がった本。

主役はRQ-1プレデター無人機の可能性に誰も関心を払っていなかった1990年代にイスラエルの防衛企業が開発を始めたところから。しかし実用化が遅れる間にカネが続かなくなって会社は破産。その会社がアメリカの別会社に権利を買収されて開発は続行される。

日があたったのは、ユーゴスラビア紛争。これで「敵を監視し続けることができるシステム」の有用性が軍に理解された。次の転機は9.11テロ事件で、アフガニスタンでの戦争で、「無人機を監視だけでなく、直接攻撃できるようにする」アイディアが実用になった。監視偵察から、攻撃、戦果確認までのプロセスが、切れ目なく行える革命的な戦争が実行可能になった。しかも、既存のシステムよりはるかに低コストで使いやすい。

この革命が可能になったのは、基礎技術の革新、つまり軽量複合材、カメラ、デジタル通信、GPS、レーザー誘導兵器のおかげ。テロリストをピンポイントで攻撃できるという需要に答えられることが、軍や大統領の態度を変え、それが軍のロボット革命になっていったプロセスが、生き生きと描かれている。

CIAがプレデター操縦に関わっていた理由もこの本で納得できた。プレデターの有用性に気づいて開発にカネを出し、計画に関わってきたのがCIAだったから。情報収集から攻撃までが1つのシステムで行えるようになれば、それを行う主体が軍であるかCIAであるかはどちらでもいいことになる。

変革の必要性がトップに理解されれば、組織全体が変わっていくアメリカの素早さも注目点。日本は無人機の開発でも利用でも、まったく遅れを取っているし、そのことが組織改革につながる目も出ていない。

翻訳はわかりやすく、注もきちんと全訳されている。訳語も正確。翻訳の早さも含めて、訳者はえらい。