増補 スペースシャトルの落日

松浦晋也『増補 スペースシャトルの落日』、ちくま文庫、2010


2005年に出版された本を文庫化にあたって、増補改訂したもの。これは良書。スペースシャトルの開発と失敗の歴史をたどりながら、その過程がそのままアポロ計画以後の宇宙開発史を全体として描き出すことになっている。

スペースシャトルに対する批判はこれまでにもいくつか読んでいたが、ここまで徹底した批判は初めて。この本を読んで、スペースシャトルの失敗が2度の大事故だけではなかったこと、アメリカがスペースシャトルに過度に依存していた(他の宇宙船計画を全部キャンセルしたために、スペースシャトルに問題があっても、簡単にやめることができなかった)ことがよくわかった。

ロシア、ヨーロッパ、日本は結局は放棄したが、一時期はすべてスペースシャトルを模倣した宇宙船計画を追求していたので、そのことはスペースシャトルの技術的優位を意味するものと思っていた。この本で、そういう認識がまったく間違っていることがわかった。スペースシャトルは、非効率でカネがかかりすぎ、そのせいで、他の宇宙船計画の可能性を食いつぶしてしまった怪物だったのだ。

なぜスペースシャトルが技術的失敗作だったのかという問題の原因が、NASA以外のいろいろな主体、特に国防省の要求に応えようとしたことにあったという説明には納得。ソ連の衛星を軌道から回収するために、再突入時にコースを変えられるようにしなければならず、そのために不要な翼をつけることになってしまった。

また、スペースシャトルが、アポロ計画以後、巨大な宇宙計画を必要としていた宇宙産業と政府側の政治的必要性の産物だったという話も非常に腑に落ちた。

日本の宇宙開発は先発組の最後尾にようやくくっついているレベルで、ただでさえ足りない予算がISSにつぎ込まれ、それがシャトル計画の遅延に振り回されてきたということも、この本でやっと認識できた。

技術を決めるのは技術者だけでなく、政治だということをよく描き出した本。この分野での必読文献。巻末の解説は堀江貴文が書いている。