海戦からみた太平洋戦争

戸髙一成『海戦からみた太平洋戦争』、角川oneテーマ21、2012


これは良書。海戦史限定ではあるが、太平洋戦争の本質をよく描き出した本になっている。一言でいえば、「作戦あって戦略なし」、「単一の想定によりかかって、次善、三善の手がなく、失敗から学ぶことがない」ということ。これは太平洋戦争の全体にわたって、海軍が(陸軍も)失敗し続けたことの原因。

真珠湾、ミッドウェー、ソロモン諸島マリアナ、レイテと主要な戦いを追いかけているが、日本側は何よりも大局的な戦略で負けている。その上に硬直的な戦術や戦争概念に執着していて、最初から最後まで変わっていない。山本五十六も、他の海軍将校よりは目端がきいていたとはいえ、全体的な見通しを誤っていたことに加えて、長期守勢の重要性を理解しておらず、いたずらに攻勢を続けて、あげくに大失敗し、自分の命も失ってしまった。

戦略の誤り、作戦の失敗だけでなく、軍令部と連合艦隊の意思疎通や人事政策も問題だらけで、これでは負けて当然。

特攻作戦も最初の一撃だけはなんとか成果を出したが、アメリカがすぐに対策を講じているのに、同じやり方をいつまでも繰り返すのでは、成功率が下がっていくのは当然。大和出撃に至っては、海軍のメンツのためにやったようなもので、見通しゼロ。

著者の日清戦争日露戦争の本は、この悲惨さを書くために書かれた前振り。この本が最も論点がはっきりしていて、よく書かれている。