視聴率の正しい使い方

藤平芳紀『視聴率の正しい使い方』、朝日新書、2007


著者は元ビデオリサーチ社勤務、ピープルメーターの日本導入に尽力した人。視聴率の見方、使い方(特に間違った見方、使い方)について書かれた本。

著者が最も強調する「間違った使い方」は、標本誤差その他の誤差を考慮していない視聴率の比較。関東、中京、近畿圏の視聴率調査サンプルは600なので、視聴率の大きさに応じて、プラスマイナス1.8%(視聴率5%)からプラスマイナス4.1%(視聴率50%)までの誤差がある。この誤差を無視したり、統計的有意差を考慮に入れずに、単純に数字を比べても意味がないというもの。これは当然といえば当然。

実際、サンプル600は三大都市圏だけで、他の調査地点ではサンプル数は200なので、相当に誤差が大きなもの。また、視聴率に地域差が大きいことを考えると、関東圏の視聴率を「全国個人視聴率」の代替物として扱うこともよくない。それができるのは、年5回調査している、放送文化研究所の調査だけ。

曜日、天気、季節、突発事件などの視聴率への影響が分析されているし、番組視聴率の数え方を理解することで、同じ時間の番組でも番組編成の仕方によって、どのように視聴率が変わってくるかについても書かれている。いろいろ有用な本。

この本が指摘している視聴率調査の問題点として深刻なのは、個人視聴率調査に伴う問題。特に、個人視聴率のカテゴリーごとの標本数が少なすぎ、数字に誤差が多すぎるというもの。三大都市圏での600という標本数は世帯視聴率だけなら問題ないが、個人視聴率を測るには少なすぎる。この本はPM導入の当事者が書いているのだが、現在でも三大都市圏の標本数は変わっていないので、個人視聴率については確実性が低いデータがひとり歩きしていることになる。

終わりの方で、アメリカその他での新しい視聴率測定の試みについて述べられているのだが、それが日本に導入されたかどうかはわからない。

著者が言っていることは、視聴率調査は、「特定の番組の視聴状況の推移を扱うべき」、「異なるカテゴリの視聴率を単純に比較すべきではない」ということ。