海戦からみた日露戦争

戸髙一成『海戦からみた日露戦争』、角川oneテーマ21、2012


『海戦からみた日清戦争』の続編。中心部分は、日本海海戦の史実の検証。すでにいわれていることだが、東郷平八郎の「丁字戦法」というものは完全に「創作」であり、実際の海戦では東郷ターンも丁字戦法も存在しなかったことが説明されている。日本側の勝因は、優速と砲戦での命中率の高さ、それに僥倖によるもの。

それが丁字戦法にすり替えられたのは、第一に、日本側が準備していたが、荒天のために使えなかった「連繋機雷」の存在を隠すため。第二は、丁字戦法というおはなしがわかりやすく、国民に簡単に受け入れられたため。しかし、当事者は口を閉ざしていたため、海軍部内でさえも、このフィクションがそのまま受け入れられてしまい、結果的に訓練と神業的な指揮による艦隊決戦での勝利という話が神話として定着してしまった。

このようなことが明らかになったのも、ネット経由で史料の公開が進んで、海軍の公刊戦史の誤りを正すことが以前に比べて容易になったため。歴史研究も進歩しているから当然なのだが、丁字戦法は20年前くらいでは、普通に事実扱いされていたから、間違った史実の定着の効果はおそろしい。