ネット・バカ

ニコラス・G・カー(篠儀直子訳)『ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること』、青土社、2010


読みたいと思っていて、いままで読んでいなかった本。これは読んでよかった。

簡単にいうと、「ネットで情報を得ることは、読み、考える能力を少しずつダメにしている」という内容。ネットで情報を獲得することは効率的だが、そのために失っているものがある。それは集中して、じっくり読むという行為、それを行う能力。

ネットでの文章の多くは細切れにされていて、短い。大量の文章を効率的に読むために便利ではあるが、そんなことをしていると、一冊の長い本をひたすら読み続けることはできなくなる。本で情報を得ることは、「読み通す」ことを必要とする作業で、ネットで情報を得ることに慣れてしまうと、「読み通す」ことができなくなってくる。それが人間の考える能力に致命的な影響を与えている。

トルストイ戦争と平和』、プルースト失われた時を求めて』は、もはや長くて退屈な作品と思われてしまっているという。自分はこの二作品を読んでいない。老人になるまで(なっても)読まない可能性は高い。だからこの攻撃があたっているかどうかはわからないが、長い作品(たくさんの登場人物とサイドストーリーを理解していなければならず、読むのが大変)は、ネットに向いていない。そういうものが読まれなくなる、能力的に読めなくなることは、自分に明らかにあてはまっているだけに、おそろしい。

著者自身も、ネットから離れられなくなりつつあることは認めている。その上で、マクルーハンが言った「メディアはメッセージである」ということの意味を強調する。形式は内容に影響を与えているのだ。内容が同じなら、どんな形式でも情報は同じということはない。

ある程度、ネットを離れる時間をつくらないと、断片化された情報に頭を占領されてしまう。現実に、電車でも、飲食店でもスマートフォンの画面に張り付いて離れられなくなっている人たちが大量にいることをみれば、問題は明らか。本当におそろしい。

この本を読むまで、「なんでKindle版で出さないのか」と思っていたが、それはあたりまえ。この本がKindle版で出ていたら、ブラックジョークだ。と思っていたら、紙でしか出ていないのは日本語訳の方だけで、原著はちゃんとKindleで出ている。
青土社Kindleキライそうだわ。まあいいけどね。