イスラム国の正体

国枝昌樹『イスラム国の正体』、朝日新書、2015


著者は元外交官。エジプト大使館一等書記官、イラク大使館参事官、シリア大使という経歴なので、アラブ屋さんだ。

イスラム国がなぜ急速に勢力を拡大できたのか、実際にイスラム国の「軍」は強いのかという疑問には、イラクの内戦と政府軍(マリキ政権)の残虐行為、シリアの内戦と政府軍の東部からの撤退に乗じて勢力を拡大しているので、実際にそれらの政府軍(訓練された軍隊)とまともにぶつかっているわけではないと見ている。

イスラム国の軍事力は、人員は志願者を集めていてそれなりに揃っており(2014年の後半で、3万人から3万5000人、半数は外国人)、武器は自前の資金で買っているほか、シリア軍やイラク軍の武器庫から接収しているので、こちらも豊富。しかし、組織的に訓練されているわけではないので、烏合の衆であることも事実。

捕虜や人質の首切り行為の理由は、過激なイスラム主義だからということと、シリアの内戦ではそういう残虐行為そのものが珍しいものではなかったからだとされている。

アメリカがイスラム国を敵視する理由は、人質殺害は単なるきっかけで、実際には既存の政府や国境線をリセットしようとする「革命軍」だからだということ。これに、イラン(親シリア政府)、サウジアラビア(反イラン)、トルコ(反シリア政府)などの思惑がからんでいる。トルコがイスラム国に接近しているように見えるのも、とにかくシリアのアサド政権を叩きたいから。

結局、イスラム国を含めたイラク、シリアの不安定化は、自国と親密な勢力を守り、すきあらば介入して勢力拡大という周辺諸国の駆け引きで、より深刻になっている。また基本的な問題は、イラクとシリアに安定した権力ができないこと。これをはっきりさせたことが、この本の価値。