竹鶴政孝とウィスキー

土屋守竹鶴政孝とウィスキー』、東京書籍、2014


これは伝記というよりは、資料本。竹鶴政孝が、スコットランドに留学するまでの事情と当時のウィスキー製造事情、竹鶴政孝が、留学中につけていた「竹鶴ノート」、竹鶴政孝の甥で、養子としてニッカウィスキーを継いだ竹鶴威へのインタビューで構成されている。

中心部分は、「竹鶴ノート」の部分。これを全部現代仮名遣いに直し、図を書き直して注を付けたもの。摂津酒造の支援で留学したので、摂津酒造にウィスキー製造法を報告した実習レポートである。

竹鶴政孝本人がいなくても、このノートだけでウィスキーを作れるように作成したものなので、とにかく細かい。現物をコピーしたものを見たことがあるが、楷書のきれいな字で清書されていて、知識のありったけを詰め込んだもの。

ドラマだけ見ていると、主人公は情熱だけ空回りしているように描かれているが、モデルになった本人はとにかく勤勉が立って歩いているような人だとわかる。このノートは会社に提出されたものだが、後に本人は自分でウィスキー製造をやっているのだから、本人用のメモは当然別にあったはず(ウィスキー製造に必要な数字が多数出ているので、単に記憶では覚えるのは難しいだろう)で、さらに中核部分はちゃんと頭に入っていただろう。

ノートには製造方法だけでなく、労務管理や販売についても書かれていて、留学中に事業化のノウハウを全部学び取るつもりでやっていたことがわかる。

昔の人の留学はとにかく並みの意思と努力ではない。そうでないと創業者は務まらないだろう。