戦後日朝関係の研究

木村光彦、安部圭司『戦後日朝関係の研究 対日工作と物資調達』、知泉書館、2008


これは労作。戦後日朝関係を、「北朝鮮の日本からの物資調達」という側面から照射している。この観点は他の本には見られない、本書独自の業績。

北朝鮮からの物資調達は、北朝鮮の工作=インテリジェンス活動と不可分だった。ココム、チンコムによる輸出規制をくぐり抜けるためのものであったし、北朝鮮が日本から物資調達を行おうとした主要な目的が軍事生産のためだったからである。ソ連や中国からの物資調達は、この面からは十分な成果を上げることができなかった。調達できる技術、物資、設備のレベルが低すぎたためである。

北朝鮮の日本からの物資調達は、近年話題になっている核開発、ミサイル開発に限定されるものではなく、金属、化学などを含めた工業のあらゆる分野に及んでいた。北朝鮮は自力では鉄道のレール生産さえ行えなかったのである。

この活動のため、金日成自身が大きく活躍したことも述べられている。金日成は、日本の政治家、財界人、学者、言論人その他の人物と積極的に面会していたが、そのなかには、反政府的な政治活動家や工作組織につながる正体不明の人物が含まれており、買収その他の方法で北朝鮮にひもづけされていた者もいた。金日成の面会自体が、このような工作活動の一環だったのである。

この本では、北朝鮮の対日物資調達を、技術移転、軍需品と民生品の区分に注目して論じている。資料の典拠は、金日成の著作や公刊されている通関統計資料であり、これらの膨大な資料から、北朝鮮にできなかった経済活動を日本からの輸入がどのように助けていたか、そこでの朝鮮総連、特に科協関係者の役割が明らかにされている。

本書の3分の1の分量をしめる、付表、文献リストも非常に貴重なもの。この本を書くためには、科学、産業の知識が不可欠で、この本が共著でなければならなかった理由がよくわかる。

北朝鮮に対する経済制裁が、それがうまくいくならば、北朝鮮に対して非常に大きなダメージとなることもわかる。北朝鮮は現在に至るまで、軍需生産に必要な各種物資を自力で生産することができないからである。しかし、物資入手は北朝鮮にとって工作活動として行われており、中国その他からのトンネル輸入が相当な規模に達しているだろうことを考慮すると、経済制裁を実効的に行うためには、緻密なインテリジェンス活動が不可欠であることも理解できる。