翔ぶが如く 6

司馬遼太郎翔ぶが如く』6、文春文庫、1980


この巻の主要人物、事件は、島津久光前原一誠、それから神風連。

いずれも頭のなかはどうでもいいような人々だが、小説になってみると、これがおもしろい。

島津久光は、完全に時代遅れの人。周りに担がれていた人が、「主役は自分」と思い込んでいて、気がついたら時勢に取り残されていた。それが悔しいので、周りに当たり散らしていたという人。やっていることは子供同然だが、他と違って、こちらは重要人物なので、周囲の人はなだめるのに苦労する。

「島津左大臣」と高位に叙せられはするが、実権があるわけではないので、たちまち辞めてしまい、三条を攻撃する弾劾状を出したりしている。もっともこの弾劾状には、公家や「四賢侯」も入っていたりするので、維新後に公家や大名の多くが、あてが外れて頭にきていたのは事実。

もう一人の小人物が、前原一誠。これは大したことはしていないのに、兵部大輔、参議になったという人。自分の意見が通らないのが気に入らず、故郷の萩に帰ったのはいいが、太政官密偵西郷隆盛の密使と信じこんで、乱の計画をペラペラしゃべってしまうという軽率な人。これではしかたがない。

さらに、小人物というよりは単なるキチガイなのが、太田黒伴雄以下の神風連の人々。こっちは、何も考えていない以上に、神がかりなので、たいへん。司馬遼太郎は、こういう人に容赦がないから、ひどい書かれようになっている。とにかく洋風が大キライというだけなので、夜陰に乗じて熊本鎮台に切り込んで、県令や鎮台司令長官以下の幹部を斬り殺したのはいいが、翌朝になって鎮台兵が起きてくると、鉄砲を持っていないので、簡単にやられてしまう。

士族反乱といっても、佐賀の乱といい、神風連の乱といい、萩の乱といい、行き当たりばったりのメチャクチャなもの。結局西南戦争もそういうことになるのだが、こんなことでは簡単に太政官は倒れない。