朝鮮総連 その虚像と実像

朴斗鎮『朝鮮総連 その虚像と実像』、中公新書ラクレ、2008


金賛汀朝鮮総連』と同じタイトル(副題がついているところは違うが)だが、同じテーマを扱いながら、独立した意義を持っている本。

違いは、金賛汀が、「編年体」で、総連の歴史を時系列的に叙述しているのに対して、こちらの朴斗鎮は、同じく総連の前史から話を始めながら、、朝鮮学校朝銀信組、工作活動、内部抗争といったテーマごとの叙述になっていること。同じテーマを扱っているので、当然重複はあるが、異なるソースを使っており、こちらの方が後から出版されているので、注意して書き方は変えている。こちらも朝鮮総連という組織を知るためには非常に有益。

どの章も興味深いが、朝鮮学校朝銀信組が、朝鮮総連という組織の中核部分であることを明らかにしていることは重要。記述もこの部分が詳しくなっている。朝鮮学校では、教育内容とその変化、総連による学校統制の方法について詳述されている。朝銀信組については、国税庁との「五項目の合意事項」や、許宗萬による集金体制の記述が勉強になった。

ただ、金賛汀の著作との違いを強調したいからなのか、あるいは金賛汀とは政治的立場が異なるからなのか、金賛汀の著書について、一切言及されていないことは解せない。この本には引用、参考文献リストがついておらず、引用は、本文中の割注に記述されているのだが、比較的後になってから出版されているのだから、これまでの総連研究の状況について一言あっていいはず。

パクリ本などではないのだから、先行研究に対して、批判的な態度であっても言及はすべきだろう。良書なので、その点が惜しまれる。