朝鮮総連

金賛汀朝鮮総連』、新潮新書、2004


著者は、元総連職員で、朝鮮史研究者。1992年の著書『パルチザン挽歌-金日成神話の崩壊』、御茶の水書房、で、金日成パルチザン活動の実態を暴露したことで、総連から裏切り者扱いされて今に至っているという経歴の人。

内部にいた人ならではの視点で、朝連、民戦時代からの朝鮮総連の歴史を通時的に書いている。中でも、朝鮮総連北朝鮮に従属していく過程が、朝鮮総連議長だった韓徳銖と、その親戚であり、副議長だった金炳植の活動を軸に書かれている部分は、非常に得心した。現在の総連組織を北朝鮮の手先にしたのは、韓徳銖であり、その韓徳銖の手先として、総連内部に工作部隊を作り上げ、結果として韓徳銖と総連に対する反対者として粛清されてしまったのが、金炳植。

本国での金日成崇拝システムが確立されたことと並行して、総連も本国の手先および集金マシーンと化していく。これが固まったのは、1970年代前半の石油ショックによる本国の資金難からのこと。その後も集金システムは存続するが、著者の分析ではバブル時においても、総連から本国への送金額は100億円を大きく超えるものではない。当時すでに、在日商工人の本国に対する忠誠心は、かなりの程度消え去っていたからだ。

総連は、金正日の指令で、自ら経済活動を行って資金調達に乗り出すが、バブル崩壊で完全にとどめを刺された。総連を批判するマスコミ報道への圧力も、80年代から90年代半ばにかけて激しく行われていたが、90年代後半になると、マスコミを含めた日本社会の北朝鮮に対する反感が大きくなり、総連の抗議活動も有効性を失っていく。

小泉訪朝と日朝平壌宣言によって、金正日拉致事件への関与を認めたことで、総連はほぼ正当性を失ってしまい、在日朝鮮人を日本から切り離して本国の影響下に置くことだけをめざす組織になった。著者は、総連は早く消滅すべきだと指摘する。

総連の集金方法、総連内部の権力闘争について、非常に教えられるところが多かった。この分野の基本書。