トロピカル性転換ツアー

能町みね子『トロピカル性転換ツアー』、文春文庫、2013


能町みね子が自分の性転換手術の顛末を書いた本。文庫で出ていたものだが、すぐにKindleになったのでそっちの方で買った。

性転換手術というものが具体的に何をするものなのか、知らない人にとっては、読んでおもしろい本。性器の整形ってこうするのかというところが、文章だけだが非常に具体的に書いてある。ペニスの亀頭部分をクリトリスに作り変えるのだが、手術そのものは麻酔でしているとはいえ、麻酔が切れたら痛くないのか?しかし著者は、その部分については特に痛かったとは書いていないので、だいじょうぶらしい。

著者が性転換手術(今の言い方では、性別適合手術)をした理由は、セックスしたい、温泉入りたい、戸籍の性別を変えたいという3つの理由。前2つはわかるが、性転換手術をすると、戸籍の性別が変えやすくなることは初めて知った。それなら、高額の手術代(本には具体的な金額は書いていない)を払う理由も納得。

著者は、タイに行って手術を受けている。日本でも受けられるが、タイのほうが簡単に受けられるのだという。入院期間はおよそ2週間。しかし著者は、2週間では終わらず、3週間近く入院。理由は著者に心臓の持病があったため。そんな重大な持病があるのに、よくタイに行って手術を受けたな。病院では、日本語との通訳がいて、通訳を使えない時には簡単な英語でやりとりする。しかし、著者はあまり英語ができないのと、タイ人の英語はなまりが強いということで、コミュニケーションは大変。

読んでいてこちらはおもしろかったが、この本を実用品として読む人、つまり自分も手術を受けようと思っている人にとっては、肝心な情報が抜けている。それは手術費用の額と、どうやって具体的に病院を選んだのかというプロセス。これは結構重要だと思うので(特に後者は)、書いてくれたほうがよかったと思う。

戸籍の性別変更についての裁判所の決定書面がついていて、これは勉強になった。「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というものがちゃんとあるのだ。

タイの病院生活は非常に快適らしい。それにしても著者は、海外旅行はこれが初体験だと書いている。いくら必要に迫られてしたこととはいえ、海外で手術される勇気は相当なもの。その分価格差があったのではないかと思うが、金額が書いていないので、そこはよくわからない。