自衛隊「影の部隊」情報戦

松本重夫『自衛隊「影の部隊」情報戦秘録』、アスペクト、2008


著者は、陸士53期。陸軍少佐で終戦を迎え、その後産経新聞記者を経て、警察予備隊に入隊。その後保安隊に改組された後、保安隊の調査隊設立に参加。その後1964年に自衛隊を退職(階級の表記なし)。その後、個人で情報サービス会社を設立して活動したという経歴の人。この本は、著者の話を、ライターの尾崎浩一という人物がまとめたもの。

聞き書きで作られた本なので、時期によって内容の粗密が激しい。自衛隊を退職する前のことは比較的時系列に忠実に書かれている。産経新聞の記者をやりながら、占領軍のCIC(G2の下にある情報部隊)の要請で、国会で共産党の控室から文書を盗み出したり、国会議員に占領軍司令部の意向を伝える工作活動をやっていたところは読みでがある。

警察予備隊入隊後は、調査隊の設立は完全に米陸軍の情報教範にそって行ったと書かれている。調査学校長で元陸軍F機関の帰還長だった藤原岩市との関係は非常に悪く、著者が1964年で自衛隊を退職した理由も、藤原との確執で疲れたからだとある。藤原は、調査隊を陸軍中野学校を基礎にして作ろうとしたが、著者は、情報活動は組織的に行う必要があり、中野学校のような個人の能力に頼った情報活動を行うような組織にすることには強く反対した。藤原岩市は、情報活動の理論を知らなかったから、中野学校を持ちだしただけだと言っている。

よくわからなくなるのは、著者が自衛隊を退職した後の話。著者が、どのような会社を設立してどのような仕事をしていたのかが、きちんと書かれていないのである。金大中事件に関連して韓国情報部と関係を持っていたこと、国交回復前に中国に旅行という形で入って情報を収集していたこと、ソ連情報も集めていたことなどが書かれているが、誰の、どのような依頼だったのか、自衛隊をやめてから、どうやって食べていたのかといった、基本的なことが書かれていない。もちろん注などはなく、裏付けも書かれていない。

著者の個人的な話をそのまま文章に直しただけなので、この本だけでは評価ができない。保安隊、自衛隊でも、調査隊設立時の細かい話をきちんと紹介してくれていれば、もっと読みどころが増えていたと思う。