自衛隊の情報戦

塚本勝一『自衛隊の情報戦 陸幕第二部長の回想』、草思社、2008


読んで驚いたのは、この本の内容は、全然「自衛隊の情報戦」について書いていないこと。著者は実際に、陸幕第二部長であり、韓国の最初の防衛駐在官も経験しているのだが、「自分は情報屋だと見られることが多いが、情報収集を本務とする職についたことはないから、情報屋ではない」と最初に書いている。また、情報分析の仕事に関わることは、ほとんど触れられていない。

では何が書かれているのかというと、1つは著者が韓国の防衛駐在官時代に経験した、よど号ハイジャック事件。しかし、これは防衛駐在官だから、特別な仕事をしたというものではなく、単に当時この事件に関連して大使館と韓国側の連絡役を務めたという以上のものではない。

2つ目は、金大中事件。これについては、著者自身が事件に関係していると見られたことの否定と、自衛隊が事件に関与しているとされたことへの否定が主な内容。著者自身の関与についての否定はともかく、自衛隊の関与についての否定は、単に著者がそのように考えるというだけで、十分な根拠が示されていない。

この本全体に言えることだが、個人的な回顧録だけであるわけではなく、事実関係について述べている部分が大きいのにもかかわらず、注釈がなく、何を根拠としているのか不明。これはよくない。