日米秘密情報機関

平城弘通『日米秘密情報機関 「影の軍隊」ムサシ機関長の告白』、講談社、2010


塚本勝一『自衛隊の情報戦』は羊頭狗肉だったが、こちらは読む価値のある本。著者は、1920年生まれ。保安隊本部情報調査部(ソ連担当)、自衛隊中央資料隊第1科長などを経て、陸幕第2部別班長=「ムサシ」機関長を務めた人。

この陸幕第2部別班というのは、かつて自衛隊の秘密情報機関として、「アカハタ」に存在を指摘されたが自衛隊によって否認されていたものを、著者が実際に機関長の立場にあった者としてその存在を認めたというもの。

著者が自らこの本を書いた理由は、阿尾博政『自衛隊秘密諜報機関』で、自分の名前が「ムサシ機関長」として指摘されていたこと、1973年頃に統幕会議議長だった中村龍平元陸将らが、朝日新聞に対して極秘だったはずの「日米情報連絡仮協定」や、「日米共同防衛図上演習」の存在を明かし、さらにその内容を、朝日新聞社自衛隊50年」取材班『自衛隊 知られざる変容』の中でも確認していたことで、もはや秘密を守る意味がなくなったからだという。

自衛隊の諜報活動については、これらの他にもいくつもの書籍や雑誌記事に当事者や関係者のインタビューが集中して出てきているため、著者はその詳細を正確に記録して発表する必要性を感じたので、この本を書いたということになっている。実際、記述の内容は非常に詳細なもので、信用に値する。

著者が機関長をつとめていた、「ムサシ」機関=陸幕第2部別班とは、米旭東軍司令官ハル大将の吉田首相に対する書簡をもとに、日米間で結ばれた秘密協定にもとづいてできたもので、目的は自衛隊の情報工作員の育成。部隊は、日米合同で朝霞のキャンプ・ドレーク内におかれ、要員は43名程度。

仕事は、外国の情報収集(国内は、アメリカが別途に警察、公安調査庁とパイプを持っていたのでやっていない)で、外国に旅行した旅行者、商社員などと身分を隠して接触し、情報を取ること。情報の内容は、あまり高度なものではなく、主に現地の写真である。この機関の存在は、陸幕の一部と、内局では防衛局長と調査課長、運用課長しか知らず、外部から質問されてもしらを切り通すことになっていた。

またこのムサシ機関とは別に、陸幕2部から別に予算を取って行っていた情報活動があり、さらに内局調査課は、さらに別にCIAと関係をもって情報活動を行っていて、このルートはすべて別物で相互連絡はない。

自衛隊の情報戦』で否定されていた、金大中事件に対する関与は、この「ムサシ」機関ではなく、自衛隊退職者が作った民間の調査会社「ミリオン資料サービス」のものだが、この会社は、陸自中央調査隊が、国内情報や北朝鮮関係の情報を集めたいという依頼を出して作られたもの。ただし、この本ではどのような関与を行ったのかは書いていない。

三島事件に対する自衛隊の関与、三矢研究以後の統合図上演習再開の経緯など、興味深い事実にも触れられている。これは良書。