地下鉄は誰のものか

猪瀬直樹『地下鉄は誰のものか』、ちくま新書、2011


猪瀬直樹がまだ副知事だった頃に書かれたもの。本の趣旨は、「東京メトロ都営地下鉄の一元化」。

この本を読むまで、営団、都営の一元化ができないのは、都営地下鉄の膨大な赤字のおかげなので、国は合併を簡単には引き受けないと思っていた。しかし、実際は都営地下鉄の財務状態の悪さは、大江戸線建設の債務を回収できる時期に達していないというだけで、全体の収益は確実に向上しており、都営線の債務状況はあまり問題にならないことがわかった。

むしろ、東京メトロを先に株式上場してしまうと、東京メトロは現在の高い収益を維持したいので、都営と合併する理由がなくなり、東京メトロ都営地下鉄の合併は永久にできなくなる。猪瀬が、副知事時代にしようとしていたのは、東京メトロの上場計画を引き伸ばすこと。これは東京メトロの主要株主が、国と東京都だからできること。

東京都の地下鉄建設史も書かれている。これは猪瀬の前著、『ミカドの肖像』、『土地の神話』などの成果が生かされたもので、東急の五島慶太と、東京地下鉄道の実質的な経営者である早川徳次との暗闘、郊外型鉄道と地下鉄のビジネスモデルの違いなどが詳しく書かれている。

結局、東京メトロは、道路公団と同じで、一旦路線を作ってしまえば後は儲かるばかりなので、子会社を作って天下り役員を抱え込んだり、不動産投資をしたりしている。これは官僚機構の利権なので、簡単には潰せない。これになんとか切り込もうとしていたのが猪瀬直樹

結局、猪瀬は都知事を辞職し、舛添が都知事をやることになったのだが、舛添に猪瀬がしようとしていた都政改革の明確なビジョンがあるのだろうか。猪瀬が都知事を続けていれば一番よかったというのは多くの人が思っていることだろうが、あらためてそのことを再認識させられる本。