なぜ時代劇は滅びるのか

春日太一『なぜ時代劇は滅びるのか』、新潮新書、2014


これは待ちに待った本。時代劇はもう死んでいる。その理由を解明した本。

理由は、単純に「つまらないものしか出てこないから」だが、その「なぜつまらないものしか出なくなってしまったのか」をきちんと腑分けして説明している。

マンネリ化したドラマ、俳優の技量不足、監督の経験不足、プロデューサーの失敗、それらすべてが「ダメ」方向にしか向いておらず、これではいい作品が出る素地が消えているということ。

著者は時代劇ライターだから、製作システムや現場の声もちゃんと拾っている。昔の時代劇も、今の時代劇も主要なものはだいたい見ていて、かつ裏側も知った上で書いているので、内容は反論を許さないレベルの出来。作品の質が落ちているのは、「たまたまそうなった」のではなく、そうなるだけの理由があったから。粗製乱造による質の低下と客離れ、それが低予算と人材養成システムの崩壊を産み、後は坂道を転がり落ちるようにダメになっていく。

著者は、時代劇は「ファンタジー」だという。ファンタジーだから、現代劇とは違う作り込みが求められ、コストもかかるし、きちんと訓練されたキャストとスタッフがいなければできない。それができるシステムがなくなってしまえば、後は個人の努力でどうにかなるような問題ではなくなってしまうのだ。

この本を読む前から、時代劇の中で特に2000年代以後に制作されたものは、あまりにも「当たり」を引く確率が低く、見るだけムダであることは経験的にわかっていた。実際に、NHKの地上波で放送されている時代劇は、大河ドラマもつまらない上に、木曜日に連続でやっている枠もひどい。民放でやっている新作もほぼ見るに値しない。自分は、それは脚本が悪いからだろうと思っていたが、本当の理由はそういう単一の原因が問題なのではなく、システム全部が回らなくなっているからということ。時代劇、テレビドラマ、映画の制作システムがよくわかって、非常にためになった。

著者は、あとがきで、なぜこの本を書いたのかという理由を述べている。今までは現在の時代劇に対する批判は控えていたが、それは立ち直りの可能性があると思いたかったため。しかし、すでにそういう段階ではなく、自分の手で止めを刺すことが必要だとおもったからだということだ。それは非常に納得させられる。形式だけ残っても、つまらない作品しか出ないのでは意味なし。昔の名作は、ソフト化されているし、BS、CS放送ではちゃんと流れているので、好きな人はそれを見ればいいだけのこと。

しかしこの本の後味がよくないのは、ここに書かれていることが時代劇だけに当てはまることではなく、日本のテレビドラマ、映画の全般に当てはまっているから。もちろん、時代劇は死んでも、それ以外の分野のテレビドラマや映画はしばらく残っているだろう。それでも、テレビドラマも映画も、新作はほぼつまらないものが圧倒的に多く、特に映画は全然ダメな分野になりつつあることは、見ている人は知っていること。昔の名作映画に比べて内容が薄すぎる。たまにおもしろい映画は作られるが、1970年代くらいまでにあった名作のレベルに達するものは出ない。ひとつの分野が潰れる過程は、こういうものなのかと思わされる。