昭和酒場を歩く

藤木TDC『昭和酒場を歩く 東京盛り場今昔探訪』、自由国民社、2012


数冊買って読んでみた藤木TDCの本では、これが一番おもしろかった。飲み屋街に特化した本。東京だけなので、その分、一箇所当たりの取材が濃い。

この本は2012年に出ているのだが、著者は2006年前後にも飲み屋街の取材をしており、著者が1980年代に回った飲み屋のことも書かれているので、昔のことだけでなく、「近過去」に飲み屋がどう変わったのかがわかるようになっている。

この本に出ている飲み屋街で、自分の個人的な記憶にあるのは、新宿「思い出横丁」と大井町、品川駅港南口、新橋、神田、有楽町くらい。よく行っていたのは、新宿と大井町。この2箇所だけについても、かなり詳しく書かれている。大井町は現在のイトーヨーカd-のあるエリア(ここはけっこう長い間更地で放置されていた)が飲み屋街で、映画館(大井武蔵野館)や、キャバレーがあった。「杯一」という大きな黄色のネオンがかかった店は、入ったことがなかったが、よく覚えている。大井武蔵野館に行く途中にあったのだ。

また、東急大井町駅の反対側の、飲み屋だらけの小路(東小路とか、すずらん通り)は今でもあまり変わっておらず、店の改装や入れ替えはあっても、基本的には元のまま。

この本のポイントは、「グランドキャバレー」という形式の飲み屋について、一章を割いて特に詳しく書かれていること。自分はこの業態の店に一度も入ったことがないが、2000年代になる前は、飲み屋街にはこの業態の店がよくあった。バンドと歌手が演奏し、客はソファーに座ってホステスの接客を受け、中央に客とホステスが踊るスペースがある形式。

ホステスの人件費のほかに、バンドと歌手のギャラも必要で、ダンスフロアに大きなスペースを取られるから、キャバクラに比べると非常にコスト高の業態。従ってなくなるのは当然。この本が出た時点で残っているのは、銀座「白いばら」、蒲田「レディータウン」、北千住、赤羽、池袋にある「ハリウッド」というチェーン店くらい。

しかしこの本を読んで、中身がわかったので、俄然、行く気が出てきた。蒲田にあるのだったら、行きやすい。消えてしまう前に行かねば。