昭和幻景

藤木TDC(文)、イシワタフミアキ(写真)『昭和幻景 消えゆく記憶の街角』、ミリオン出版、2009


藤木TDCの、こちらは古い町特集の本。かなり写真が多いので、半ば写真集のようなもの。一箇所で4ページ。取り上げられている場所は、「人世横丁」(池袋)、マッカーサー道路(芝)、高浜橋(芝浦)、九段下ビル(九段下)、羽田船だまり(羽田)、コリアンタウン(東上野)、問屋橋(人形町)、橋本会館(濱町)、千代田街ビル(飯田橋)、四十五番街(中野)などなど。

1960年代以前にできた建物は、田舎だとふつうにあるのだが、地価の高い都会では簡単に建て替えられてしまうので、そんなにたくさんあるわけではない。それでも、よく探すと忽然と古い建物や町が出現することがあるのだ。この本に出てくる建物や町も三分の一くらいは行ったことがあったり、電車の窓から見えていたりするので、ちょっとはわかる。

誰かがお金をかけて残しているのではなく、権利が複雑だったり、地上げに失敗したりして、たまたま残っているだけというものなので、なくなるときはあっというまになくなる。この本に出てくるところでも、この本が出版された2009年時点で、もうなくなってしまったところがいくつか出てくる。そういうものなのだ。

おもしろいのは、古い町が取り壊され、再開発が始まるまでのほんの一瞬、町中にいきなり空き地が出現した状態になること。著者は、「再開発荒野」と呼んでいる。これは建て替えまでのわずかな期間しか存在しないので、本当にわずかな時間しか残らない。赤瀬川原平超芸術トマソン』に出てきた、六本木の風呂屋の煙突や、特撮番組のロケに使われていた淀橋浄水場跡地みたいなところである。

今はグーグル・ストリートビューがあるので、その瞬間がたまたま住んでいないところであっても見られることがあるのだが、グーグルは、撮影したストリートビューの写真を撮影時期ごとに保存してくれないのだろうか。あれこそ本当のタイムマシンなのに。