田中角栄

早野透田中角栄 戦後日本の悲しき自画像』、中公新書、2012


朝日新聞田中派番記者だった著者による田中角栄の評伝。政治家の場合、政策、党内での権力闘争、選挙、人物の4つの面がバランスよく書かれている必要があるが、この本はそのことは満たしている。

また、著者は番記者として直接田中角栄に接していた人で、その体験を元にした個人的なエピソードも書かれている。これは文献だけを元にして書く人にはできないことなので、著者には田中角栄の評伝を書く資格があると、一応は言える。

新書にしては厚めの400ページほどのボリューム、幼少期から死までのことがきちんと書かれていて、特に文句をつけるような本ではないのだが、はっきり言って、読んでいて非常に物足りないものを感じる。

副題に「戦後日本の悲しき自画像」とあるので、戦後日本政治、特に自民党政権において田中角栄がどのような足跡を残したのかについて、きちんとした分析があると期待したが、それはないのだ。単に田中角栄のたどった道を年表のとおりに追っているのみ。田中角栄が個人的に非常に魅力のある人だったことはわかるのだが、それではこの大政治家を描くには不足だと感じる。

田中角栄の「金権体質」に対して、批判めいた表現が繰り返し出てくるのだが、カネの集め方や使い方について、田中角栄を同時代の自民党の政治家とくらべて何か特別なことがあるのか?それがなければ、田中角栄は「たまたま金銭スキャンダルが見つかっただけ」ということになってしまう。田中角栄自民党の集金システムや、政策からカネを吸い上げる方法について、どのように新しい方法を使ったのか、そうでなかったのかをきちんと書かないといけないのではないか。

巻末の文献リストを見ると、田中角栄についての本は、側近や愛人、庶子などの近い距離にあった人によって書かれたものを除いて、非常に少ない。この本はこの本で存在価値はあるが、より分析的な本が書かれなければいけない。