立花隆「嘘八百」の研究

立花隆嘘八百」の研究 ジャーナリズム界の田中角栄、その最終真実。』、別冊宝島Real027、2002


これは谷田和一郎『立花隆先生、かなりヘンですよ─「教養のない東大生」からの挑戦状─』、洋泉社、2001の出版を受けて編集された、立花隆の批判本。執筆者には、浅羽通明野田敬生小浜逸郎朝倉喬司山形浩生大月隆寛など名のある人が並んでおり、ほかに宮崎哲弥、佐藤進(『立花隆の無知蒙昧を衝く』の著者、工学者)らのインタビューも載っている。立花隆のいろいろな仕事分野にそれぞれのフィールドを持つ人たちが挑んでいるという構図。

谷田和一郎の本は読んでいたので、立花隆の本が鵜呑みにすべきでないことはわかっていたが、こちらを読むと、それ以上に相当いい加減なところが多いことがわかってきた。立花隆の仕事のうち、ちゃんとしているのはやはりロッキード事件関係の本。これは法律的な論点もよく抑えている。『日本共産党の研究』、『中核vs.革マル』もちゃんとした仕事。

ところが、それ以外の分野、特に理系関係の本が相当あやしい。具体的には、臨死体験、インターネット、バイオテクノロジー脳科学、科学思想、といったもの。これは谷田和一郎の本でも暴露されていたが、基本的に理系の体系的な教育を受けていない人が、本を読んで人に聞いただけで、よくしらない分野の本を次々と書いていしまうことの結果がよくないということ。

以前立花隆自身が自著の中で、「その分野の本を30冊位読んでいけば、専門家にインタビューできるようになる」と書いていたものを読んだことがある。それは30冊読めばインタビューはできるかもしれないが、自分の中に基礎の蓄積がない分野だと、本を30冊読んでも、基本的なことがわかったことにはならず、インタビューはできても、それで本を書いてしまうのは危ない。しかも、立花隆の本には、その分野の専門家から見ればすぐにわかるような過ちが頻出していて、専門家に出版前の原稿を読んでもらっていないことが明らか。

こういう立花隆の問題点について、専門家はおおよそ「素人の書いたもの」として無視しており、専門家が書いた数少ない批判は立花隆の本を読む一般読者には届かないのでそちらには届いていない。その中間にいる雑誌編集者やテレビ制作者は、自分もその分野のことがよくわかっていないので、立花隆は「知らないことを一般人にわかりやすく説明してくれる便利な人」くらいに思っている。もちろんその人達には立花隆が言っていることが正しいかどうかはわからない。

結局この仕組みの中で「知の巨人」というキャッチフレーズができてしまい、イメージだけが大きくなってしまったのが立花隆という人。この構図は、今でも大して変わっていない。