文化大革命

矢吹晋文化大革命』、講談社現代新書、1989


文化大革命の経過をまとめた本。新書ではあるが、入手できる限りの一次史料に依拠してまとめられた実証的な本。おそらく現在でも、文革の評価はこの本からそれほど隔たってはいないだろう。

実証的で信用のおける本である反面、読んでいて非常にわかりにくい。文革の事件経過についてはきちんと書かれているのだが、それらの事件が「どのように」起こったかはわかっても、「なぜ」起こったのかについては、よくわからないのだ。おそらく著者は、そうした「理由の説明」については、史料から許される範囲を踏み越えるものと考えているのだろう。しかし、結局文革とは何だったのかという問いに対しては、「それがなぜ起こったのか」に対する答え抜きでは、回答にならないと思うのだが。

直接的ではないが、答えの一部は示唆されている。結局、毛沢東の病的な思考が文革を生み出したということだ。江青ほかの四人組は、完全に毛沢東のパシリで、毛沢東の意図を忠実に実行していただけ。毛沢東の権威を守るために、毛沢東死後すべての責任を押し付けられただけ。その毛沢東は、資本主義との戦争は不可避と考えていたし、自分の頭のなかにある「社会主義革命」(農業集団化、重工業優先)を反対を無視して強引に推進しようとした。その結果が文革だったということだろう。

指導部内では、当初、林彪だけが毛沢東派で、毛沢東の権力はおよそ絶対的ではなかった。それが周恩来らが毛沢東に日和ったために毛沢東が反対派を叩き落とすことが可能になった。後は反対派とみなされた人間が次々と叩き落とされただけである。

この一冊で全部わかろうとするのは調子がよすぎるので、文革期のことをきちんと書いた通史を読む必要を痛感する。この本が出た1989年にはまだ文革の記憶は生々しかったが、今はどうなったのだろうか。