金正日と金正恩の正体

李相哲『金正日金正恩の正体』、文春新書、2011


金正日の生前、2011年2月に出版された本。この年の12月17日に金正日は亡くなってしまったので、ちょうどいい時期に書かれたことになる。著者は、龍谷大学社会学部教授。出身は中国で、日本統治時代の朝鮮の新聞史についての本があるから、メディア史の人。北朝鮮を専門にしている人ではない。おそらく中国朝鮮族

この本の情報源はほとんどが韓国発のもの。あとがきに、「10年前に東京、半蔵門にオフィスを借りていて、そのオフィスを共有していたのが韓国の元高官で、その人の資料をそのまま譲り受け、それをもとにして本書を書いたとされている。

韓国発なので、興味深い記述が多い。金正日の権力掌握過程、金正恩の兄、正哲の生い立ち、今は粛清されてしまった金正恩側近の高官たちのプロフィールなど。日本の北朝鮮研究は絶対的に人が少ないので、カバーしていることに限りがある。その点、韓国ははるかに多くの人が北朝鮮研究に携わっているのだから、情報量は豊富に決まっている。韓国の北朝鮮研究は、脱北者の書いた本など、一部の例外を除いてはあまり日本語に翻訳されていないので、そういう意味では価値がある。

しかし、問題は、著者がもともと北朝鮮の専門家でないために、この本で使われている情報源がどこまで信用できるのかがよくわからないこと。金正哲の位置や生い立ちは、疑問符がつくような記述が多い。国防委員会と労働党軍事委員会の関係についての記述にも混乱がある。使用した資料は、巻末に一括して掲載されているが、この資料のどれがどこまで信頼できるのかについて、史料批判を行った形跡が見られない。話題性のあることについて書く必要があったからかもしれないが、取り扱っているネタがバラバラで、内容に粗密がある。気をつけて読まなければならない本。