司法官僚

新藤宗幸『司法官僚 裁判所の権力者たち』、岩波新書、2009


瀬木比呂志『絶望の裁判所』があまりに衝撃的だったので、こちらも読んでみた。これは行政学者が、「外側から」迫れる範囲のぎりぎりのところまで、官僚機構としての裁判所の実態を追及した本。

内部の人ではないが、もちろん現職、元職含め、裁判所関係者にあたれる限りはあたって、かつ、手に入る限りの資料を渉猟して、裁判所の内情を書いている。特に、最高裁判事のうち、長官に就任した者、事務総長、事務総局局長、事務総局局付、最高裁調査官のキャリアパスを掲載していて、どのような経歴を持つ者が裁判官として出世するのかということを、具体的に書いている。

基本的な「出世コース」は、判事補から、都市部の地裁で勤務し、その後は、中央(事務総局)と地方(地家裁)を往復しながら、その間に行政に出向して、出世コースを上がって行く。このすべての過程は、事務総局が修習生時代から掌握している。特に事務総局の官房系部局(総務局、人事局、経理局)の課長ポスト、中でも秘書課、広報課、情報政策課の課長職が上に行くための重要ポスト。ここを通る者が出世を約束されているので、裁判官が上の命令に絶対服従でとにかく出世をめざすことには納得。

裁判官考課調査票という人事記録や、実際の考課表の記述も引用されていて、生々しい。しかし人事局は、この考課表ではないルートで人事情報を蓄積しているという。それがどのようなものかは著者にもわからない。

転所、昇任、昇給で裁判官の「出世レースでの位置」はガチガチに固められているのだが、年功で号俸が上がっていく行政官に対して、裁判官は昇給に規則性がなく、人事局の差配で昇給が決まっている。これで自分の位置がわかるので、裁判官は上の意向をうかがうことにならざるを得ないということ。

生々しさにおいては、『絶望の裁判所』に一歩譲るが、資料で具体的に裁判所の内部に迫ったことは大きな成果。著者は、人事の分権化その他、裁判所改革案を提示しているが、実際には裁判所がそんなものには鼻もひっかけていないことは、見ての通り。