国家はなぜ衰退するのか

D.アセモグル、J.A.ロビンソン(鬼澤忍訳)『国家はなぜ衰退するのか 権力・繁栄・貧困の起源』上・下、早川書房、2013


出版以来、やたら話題になっていたアセモグルとロビンソンの本、やっと読めた。やはり名著。

政治経済学、中でも制度論の立場から、経済成長をもたらし、あるいは阻害するものは、政治制度と経済制度の特定の組み合わせであることを豊富な歴史的事例に基いて主張している。

この本では、政治、経済制度は、「包括的」(自由で、法の支配と所有権が確立された、人間を平等に取り扱う。民主制)か、「収奪的」(包括的以外のあらゆる制度、法の下の平等がなく、政治的自由や所有権が保障されていない制度。権威主義体制、社会主義体制、封建制など広範な制度を含む)かという軸で分けられる。著者の主張では、「包括的な政治制度」と「包括的な経済制度」の両方が揃わなければ、長期にわたって経済成長を続けていくことはできない。当然、この2つが両立することは針の穴に糸を通すように難しいが、現在の北米と西欧および日本という民主制国家は、この困難な道を切り抜けてきた国家であり、この道を歩むことができなかった国家は、持続的な成長に失敗してきた。

もちろん、「包括的制度の両立」がない場合でも、しばらくは経済成長を続けることはできる。現在の中国やアフリカの経済成長もその例。しかし、包括的な制度をもたない条件では、経済成長は、生産性の低い分野から高い分野への要素移転や、世界市場での資源価格の変化など、「持続的ではない」ものになる。「収奪的な制度」の下では、統治者には、自分の権力基盤を掘り崩すような、イノベーションの可能性を潰すインセンティブが作用する。従って、収奪的制度は経済成長を続けていくことができない。

著者によれば、制度が、そしてほぼ制度のみが、長期的な成長の可能性を決める要因である。ダイヤモンドが論じたような、地理的、生態学的要因や、文化の違い、その他の社会学的要因は、経済成長の長期的な差を説明できない。

政治と経済の関係についてのこれまでの議論をまとめて凝縮した、密度の濃い議論。比較政治経済学の現時点での決定版。これは話題になるのも当然だ。下巻末についている稲葉振一郎の解説は、非常に理解の助けになる。