人口から読み解く国家の興亡

スーザン・ヨシハラ、ダグラス・A・シルバ、ゴードン・G・チャンほか(米山伸郎訳)『人口から読み解く国家の興亡 2020年の米欧中印露と日本』、ビジネス社、2013


人口動態の変化がもたらす地政学的影響を、主に軍隊の人員調達を中心に幅広く考察した本。取り上げている国は、副題通り、日本、中国、インド、ロシア、ヨーロッパ諸国、アメリカ。歴史的な考察として、古代のアテネとスパルタにも一章が割り当てられている。

ここで取り上げている国の中で、現在の時点で人口増加の恩恵を受けているのは、中国、インド、アメリカだけ。日本とロシアは急速な高齢化と人口減にすでに直面していて、ヨーロッパも現在の人口水準を維持できない。中国ではまだ人口増が続いているが、人口政策の失敗でいずれそれも終わり、高齢化、人口減になる。将来とも人口増または現在人口の維持が見込めるのは、インドとアメリカだけ。

問題は高齢化と人口減が、安全保障にどのような影響を及ぼすかということだが、著者の見解では、「高齢化は保守化をもたらし、老人の平和が訪れる、というこれまで主張されてきた説にはあまり根拠がない」という。トシ・ヨシハラは2つのシナリオを示していて、1つは、「将来の人口減が起こる前に戦争に打って出る」可能性、もう1つは、「人口減は安全保障上の責任を果たす能力を奪うので、安全保障から撤退していく」可能性。日本については、後者の可能性が大きいという。しかし中国については、前者の可能性も捨てきれず、ロシアの行動についてもわからないことが多い。

人口減を軍隊の装備近代化で代替しようという策は、それほどうまく機能しない可能性が高い。人員は軍隊にとって重要な資源であること、また人口減は経済成長の停滞にもつながるので、人口減社会で、軍隊への投資を増加させることは難しい。

また、少なくともロシアとヨーロッパ諸国では、安全保障戦略の策定に人口動態があまり考慮されておらず、人口減が起こった場合に戦略に大きな転換を迫られるかもしれない。

移民は人口減に対する最も手っ取り早い、安易な対策だが、社会的結合力を弱め、それ自体が紛争の源になるかもしれない。

人口が安全保障に及ぼす影響を考察した本は少ないので、貴重。しかし、日本は先進国が直面する最悪ケースの例として取り上げられていて、「悪い見本」になっている。現状を見れば当然だが。