昭和梟雄録

溝口敦『昭和梟雄録』、講談社+α文庫、2009


これは1982年から89年の間に雑誌『現代』、『文藝春秋』、『週刊文春』、『諸君』、『人と日本』に掲載された人物伝を集めたもの。取り上げている人物は非常に多彩で、横井英樹岡田茂、豊田一族、若狭得治、永野一男中川一郎矢野絢也山崎正友、池田大作

豊田一族(ここだけ個人ではない)のように「梟雄」と言っていいのかどうか迷うような人物も載っているが、後の人々はまさしく梟雄。怪物みたいな人物ばかり。

ここに挙がっていた人物は、名前とどのような事件に関わっていたか程度しか知らず、池田大作のみ、同じ著者の伝記を読んでいた限りで知っていたのみ。しかし、お世辞にも善人の枠には入らないような人々ではあるものの、昭和の事件史に名を連ねる人々だけあって、どの人を取っても、只者ではない。

中でも、横井英樹岡田茂には驚いた。横井英樹の悪党ぶりも相当なものだが、岡田茂は、単なる雇われ社長でありながら、三越の特殊な株式構成を利用して会社を私物化した人物。上場企業でもこんなむちゃくちゃなことをしていて、ガバナンスも何もない。

また最後の3人、矢野絢也山崎正友、池田大作はいずれも創価学会関連の人物だが、池田大作以外の2人もこれまた怪しさでは池田に負けていない。矢野絢也は、カネ、利権、遊び、出世となんでもこなす怪物、山崎正友は秀才から創価学会の「闇の帝王」となり、そこから学会を裏切ったトリックスター池田大作については、『池田大作「権力者」の構造』とあまり内容が被らないように配慮されているが、幼少期から学会幹部になるまでの部分と池田がどこで自分を粉飾していたかが細かく書かれていて、これだけ読んでも非常におもしろい。

ここで取り上げられた人は、多くがすでに過去の人だが、この本の元原稿が発表されてから、文庫本として出版された時点での、それぞれの人物の「その後」が簡単に各章ごとに付け加えられていて、この部分を読むと非常に感慨深いものがある。

あとがきで、著者は「人物評伝は書かれる相手の器量だけでなく、書き手の器量が問われる」と書いているが、取り上げる人物の選択、圧倒的な取材量、そこから浮き彫りにされる人物像のどれをとっても、著者の力量を見せつける名著。