孫子とクラウゼヴィッツ

マイケル・I・ハンデル(杉之尾宜生、西田陽一訳)『孫子クラウゼヴィッツ』、日本経済新聞出版社、2012


アメリカの陸軍大学校相当の学校で使われている教科書。『孫子』と『戦争論』は、戦争へのアプローチにおいて、まったく対立しているように考えられているが、ほんとうはそうでもないんですよ、という本。

叙述と研究のスタイルの違いを考慮して読めば、『孫子』と『戦争論』は、一見違うことを言っているようでも、その差は決定的なものではない。ただし、やはり見解がどうしても一致しない点はあって、それは「情報の価値」「欺瞞の効用」「奇襲の妥当性」「戦場での状況予測可能性とそのコントロール」である。

これは両書が焦点をあてているレベルの違いによっていて、孫子が戦略レベル、上位の作戦レベルに注目しているのに対して、クラウゼヴィッツは下位の戦略レベルに注目していることによる。

この点に注目して読めば、孫子クラウゼヴィッツの違いは、戦争のどこを見ているかの違いによっていて、両者は対立というより補完関係にある、というのが結論。

孫子』、『戦争論』を従来とは異なる視点で読み、互いのエッセンスのすり合わせを図った良書。ただし、原書が引用している『孫子』の注釈の訳書がないので、訳者が新しく訳出している。孫子のような本でも、注釈書が訳されていないということにおどろいた。