陸軍人事

藤井非三四『陸軍人事』、潮書房光人社、2013


これはおもしろい本。帝国陸軍の人事をシステムと実態から明らかにしたもの。

著者は、1950年生まれ、戦史家。名前からしペンネームかと思うが、学歴が書いてあるので本名かもしれない。

陸軍の人事は、士官学校陸軍大学校の期別でかなり決まっているので、軍人一人一人の経歴を把握していなければならない。この本を読むと、陸軍省参謀本部教育総監部、各部隊の主要なポストにいた人物が山のように並び、陸士、陸大の期別や成績、陸大時代の教官ー生徒関係、どの時期にどの部隊や機関で結びつきがあったか、といった細かいデータを著者がきちんと把握していることがわかる。

実際に陸軍軍人で士官学校を出ている人であれば知っていることでも、これだけの数の人間の経歴を把握しているのはかなり大変なこと。このネットワーク関係がわからなければ書けない本。

それだけでなく、陸軍人事の基本システム、どの時期の部隊編成がどうなっていて、宇垣軍縮でどのくらいの将校が退役しなければならなくなったか、逆に支那事変でどのくらいの予備役将官が現役復帰できたか、といったことがこれも詳細に書いてある。この部分が非常に勉強になった。

読んで分かったことは、陸軍人事が、期別、学校での成績、人間関係でほとんど決まってしまうシステムになっていて、実際に戦争が始まってからもこのシステムをいじることはほとんどできず、敗戦の重要な原因になったということ。特に大量動員を始めた後に将校養成が、それについていけるシステムにならなかったことが致命的。この本は陸軍について書いているが、海軍でも基本的には同じシステムだったので、これでは大戦争をできる態勢になかったことがよくわかる。

自衛隊の人事システムにも言及されていて、自衛隊アメリカから人事システムを移入しているから、これとは違うというのだが、そのようにあっさり言っていいのかどうか。