ほんとうの中国の話をしよう

余華(飯塚容訳)『ほんとうの中国の話をしよう』、河出書房新社、2012


余華のエッセイ集。原題は、「十個詞彙裡的中国」で、タイトル通り、10の言葉を表題にして、中国の歴史と著者自身の人生をつないだエッセイをつづっている。

著者は1960年生まれなので、文革の最中に子供時代を送っている。この文革にからめた文章が非常にいい。著者は、文革の外にいたのではなく、小さい紅衛兵もどきとして、「配給切符の闇取引摘発運動」に参加したり、ケンカ相手を言い負かすために魯迅を持ち出したりしていたのだ。このエッセイには、著者自身が他人を傷つけた痛みを自分で反芻しながら、痛みを感じていることが直に伝わってくる。

コピー天国を書いた「山寨」、他人をぺてんにかけることを書いた「忽悠」も笑いの中に鋭い刃が突き出していて出色の出来。

中国の知識人が味わってきた有為転変が読者の心に直接伝わってくる。先日のNHKBS1のインタビュー番組は、この本と同じタイトルだったが、その理由もよくわかった。番組では容赦なく中国の現体制が批判されていて、こんなことをテレビで話して大丈夫なのかと思っていたが、そんなことを気にするようなぬるい人ではないのだ。

天安門事件のような中国では出せない問題も正面から扱っているので、中国本土では出版できない本。この本は、台湾で出版された版に、英語訳を参考として訳出されたもの。

巻末に2012年時点での、著者の著作リストと、作家としての経歴についての訳者の文章があり、これも非常に有用。今、日本で読まれるべき本だと思う。