人間の性はなぜ奇妙に進化したのか

ジャレド・ダイアモンド長谷川寿一訳)『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』、草思社文庫、2013


文明史家のような人にされているダイアモンドの本職である、進化生物学の本。当然こちらもおもしろい。

人間の性関係が、他の生物とどのように違うのか、それはなぜなのかという疑問に答える内容。著者の問いは、(1) 夫婦の長期的なペア関係、(2) 夫婦共同での子育て、(3) ほかの性的カップルとの近接、(4) 密かに行われるセックス、(5) 排卵の隠蔽、(6) 女性の閉経、の点で、他の生物とは異なる。これらの点は、部分的には他の生物とも共通点があるのだが、これらの特徴を全部人間と共有している生物は他になく、チンパンジーボノボ、ゴリラ、オランウータンなどの近縁種とも異なる。

著者は、ていねいにその理由を考察しているのだが、中でも新鮮な指摘は、オスはなぜ授乳しないのか(著者によれば、オスの器官は授乳可能で、実際にオスが乳汁を出している例がある)という点と、メスの排卵が隠蔽されている理由(妊娠することがセックスの重要な目的であるなら、排卵期は外部に見えるようになっていた方が有利に思える)という点の二つ。

学説を対比させて、説得的な説明を探求している部分は、「本職の学問なのだから当然」というレベルではなく、疑問をおもしろい形で提出し、スリリングに疑問の答えを追求するという著者得意の名人芸。他の文明論寄りの本が、おもしろいがやや大雑把な説明になっているところが、この本では、きれいに明快な説明になっている。

もっとも原著は1997年に出ているので、この本の論理が現在の知見で支持されているのかどうかはわからない。その点では、訳者か、生物学者がちゃんと解題を書いているべきもの。