戦争と科学者

トマス・J・クローウェル(藤原多伽夫訳)『戦争と科学者 世界史を変えた25人の発明と生涯』、原書房、2012


古代から現代まで、25の軍事的発明と、その発明者のエピソードを集めた本。ギリシャ火や連弩から、フリントロック式銃、瓶詰食料、リボルバー式拳銃、毒ガス、飛行機、戦車、原爆、レーダー、防弾繊維など、対象は広くカバーされている。

しかしそれがこの本の弱い所でもあり、中世以前の発明は特定の個人と結びつけることが難しかったり、アイディアだけで実用性がなかったりする。それが明らかになるのは近代以降だが、現代の大きな発明だと、あまりにも多くの人が関係していて、発明の功績を特定の個人と結びつけることがむずかしい。

それと、400頁あまりの本で25の発明を取り上げているので、一つあたりの記述がやや薄い。倫理的な問題を取り上げたいのなら、発明者個人の役割や考え方をもっと突っ込んで書く必要があるが、そこまでのことはしていない。まあ、著者の目的は「科学者と倫理」を突き詰めて書くというところにはなく、人間と軍事的発明のさまざまなエピソードを広く紹介することだと思われるので、そんなに突っ込むべきところではないのだろうが。

しかしそれにしては、フォン・ブラウンの項目ではV2計画の強制労働のような、フォン・ブラウンにどれだけ責任があるのかどうか疑問になるようなことが過度に大きく取り上げられているし、生物兵器のところでは、生物兵器の発展そのものには大して貢献したとはいえない石井四郎が大きく取り上げられている。

中性子爆弾のところでは、サミュエル・コーエンが発明を後悔していなかったことが強調されているが、用兵側の要求で爆発力が強化された(普通の核爆弾に近い性能になった)ことを、発明者のせいのように書かれても困るし、原爆とオッペンハイマーの項目では、オッペンハイマー共産主義者だと疑われたことがやたら強調されている。

そもそも、直接人を殺すのが悪い発明だが、レーダーはイギリスをドイツから守り、防弾繊維は兵士を弾丸から守ったからいい発明という理屈はあまりに浅くないか?中途半端に倫理を持ちだしているのはあまりいいことではない。

翻訳は非常に読みやすいので、兵器発明のエピソード本としてなら、許せるけど。