昭和戦争史の証言 日本陸軍終焉の真実

西浦進『昭和戦争史の証言 日本陸軍終焉の真実』、日経ビジネス人文庫、2013


昭和戦争史の証言』、原書房、1980を改題、文庫化したもの。著者の西浦進は、明治34年生まれ、陸士34期、陸相秘書官、軍務局軍事課長、支那派遣軍参謀で終戦、という経歴の人、砲兵大尉として中隊長を務めた後は、ほぼ全部の経歴を軍務局軍事課で過ごしている。本人は「前線に出たかった」と書いてはいるが。

敗戦後は、防衛庁防衛研修所嘱託、陸上自衛隊幹部学校戦史室長(のち防衛研修所戦史室長)となり、「戦史叢書」の編纂に当たった。陸軍中枢にいた「生き字引」なので、この仕事も納得。序文は、戦史家の土門周平が書いていて、戦史室長だった著者にずっとくっついて話を聞ける限り聞いたとある。

記述は満州事変から、支那派遣軍参謀として中央から転出するところまで、14年分くらいあるが、この間のさまざまな事件についての断片的なエピソードが書かれている。

内容は、陸軍の官僚制の強固なことと、中枢部で責任ある立場にいた軍人の無能が非常に印象的。日中戦争も、太平洋戦争も、明確な計画や見通しを持たずにずるずると始めてしまい、その後失敗だとわかってもやめられない。特に、始める時の無計画は致命的。ノモンハン事件参謀本部の稲田第二課長が、陸相に直接無理押しして決めさせてしまい、岩畔軍事課長が反対しようとしたら大臣が決裁してしまって、そのままやることになってしまったという。信じがたい話。

陸軍組織の非能率や、各組織の内部抗争も生々しく書かれている。人物評が多いので、陸軍高級将校のプロファイルに詳しい人にとっては価値が高いだろう。