自民党で選挙と議員をやりました

山内和彦自民党で選挙と議員をやりました』角川SSC新書、2007


想田和弘ドキュメンタリー映画「選挙」の主役だった、元川崎市義、山内和彦による当事者からの「選挙」の記録。映画はけっこうおもしろかったが、こちらの本もおもしろい。

著者は、切手とコインのお店をやっていて、川崎市義補選には全然地縁のないところに、公募の落下傘候補として出たのだが、この本を読むと、このような方法で地域に関わりがない人がなぜ選挙に出られないのかということがよくわかる。

自民党の選挙は、市区町村会議員、都道府県会議員、(首長)、国会議員でちゃんとネットワークになっているが、それぞれの議員の政治活動の基盤になっているのは後援会。落下傘候補は、後援会のないところにいきなり立候補するため、自前の後援会を一から組織し、党員を集めなければならない。これがむずかしい。

著者は補選で立候補して当選したので、最初の選挙は自民党川崎市、神奈川県の組織が面倒を見てくれる。特に著者が出た2005年の補選は、小泉ブームがまだ続いていた時だったので、その恩恵も受けることができた。それでも、次点の民主党候補とは、20554票対19534票で、1000票しか差が開いていない。大都市の川崎市でもそうなのだから、人口の少ないところや、地方ではネットワークがないとやっていけないだろう。

映画の中では、著者が次の選挙に不出馬になった理由がはっきり描かれていなかったのだが、結局後援会をつくる基盤がなく、党員を集められなかったというのが理由。党員50人を新規に獲得することが求められたというのだが、著者が所属していた川崎市宮前区での自民党員は1000人。これでまったく地縁がなく、名前も知られていない人が50人の新規党員を獲得するのは無理で、結果として出馬を断念せざるを得なかったということ。

川崎市政令市だから、議員歳費も1400万円と結構な金額なのだが、歳費も政治活動の重要な資金源なので、贅沢な生活はできない。著者の選挙費用は330万円だが、それは選挙期間中にかかった費用だけで、準備にかかった費用や、その期間仕事ができなかったことを計算すると、1000万円くらいはかかっただろうと書かれている。議員を4年続けられてようやく選挙費用をまかなえるのが普通だとのこと。これでは、政治家になろうという奇特な人がいないのも当然だ。