軍隊を誘致せよ

松下孝昭『軍隊を誘致せよ 陸海軍と都市形成』吉川弘文館、2013


主に戦前期の陸海軍基地つまり、衛戍地鎮守府などの建設と、都市建設がどのような関係にあったのかを調べた本。著者は、鉄道建設史を主にやっていた人だが、その流れで鉄道建設と軍隊誘致に関心が移り、こういう本ができたというわけ。

もともと大都会だった東京や大阪はともかくとして、地方にとっては、陸海軍の誘致は大きなメリットがあった。若年人口の増加による町の商業的発展と、軍隊が来ることによるインフラ整備である。従って、明治期から昭和にかけて、軍隊の規模が大きくなり、衛戍地鎮守府、要港部などの基地が増えていくと、地方ごとで熾烈な誘致合戦が起こっていて、地方はそのためにコネでもなんでもいろんな手を使っていた。一方、陸海軍の側では、軍隊がやってくることによる地価の高騰を嫌がっていたので、用地については、なるべく「献納」ということにして安くあげようとしていた。もちろん、地元の協力を秤にかけて、より有利な方を選択するという取引もやっていた。

このような誘致運動と平行して、著者が注目しているのが、鉄道建設、水道敷設、遊郭設置。いずれも軍隊には欠かせないものだが、鉄道や水道については、軍事的必要がそれら施設の整備に非常に大きな役割を果たしていた。遊郭は言わずもがなだが、軍は、私娼が性病の元になるとしてこれを嫌っていて、衛生管理の確保された公娼街の設置を望んでいた。もちろん、地元では必ずしも新しい遊郭ができることを歓迎しない場合もあったのだが、結局需要あるところに供給ありで、軍隊と遊郭は密接に結びついた存在になっていた。

もともと商業的な都市であったところはともかく、中規模以下の町では軍隊誘致は街の発展にかかわる存在として非常に歓迎されていたことがわかる。戦後の自衛隊基地の誘致については、当然反対運動があったので、歓迎一色ではなかったが、それでも警察予備隊時代から、部隊の誘致運動は一部の町ではあったことが書かれている。戦後の問題にもこれから手を伸ばす意思があると書かれているので、著者の今後の仕事に期待。