黒田如水

吉川英治黒田如水青空文庫、1943


吉川英治が今年から青空文庫に入ったので、ぼちぼちと読んでいる。この『黒田如水』は長さが手頃の中編小説なので、大河ドラマを見る参考に、と思って読んでみたらおどろいた。

この小説、黒田如水という題だが、如水を名乗るところまで話が進んでいないのだ。それどころか、本能寺の変中国大返しすら起こらない。三木城を落として1万石の禄をもらい、さらに1万石加封されたところでおしまいである。天正九年、36歳の時点で終わり。

なんでこんな中途半端な話になっているのか、よくわからない。原著の連載は1943年なので、著者の寿命は関係なし。残りのページが少なくなるのに話があまり進行しないのでおかしいなとは思っていたが、これから話がおもしろくなりそうなところで急に終わるのだ。

こういう展開なので、黒田官兵衛伊丹城有岡城)に幽閉されて助けだされるところが一番のハイライト。しかし、黒田家家臣の救出作戦は、結局織田軍の攻撃で落城するまでうまくいかないわけなので、大して見せ場はない。一応黒田家から女が一人、荒木村重の妻女の腰元として城に潜入することになっているが、そんなに活躍するわけでもない。そもそも城に幽閉されている状態で官兵衛を活躍させようがないのだ。

むしろ竹中半兵衛が、黒田官兵衛の嫡子を匿っていたものを織田信長に告白するところが見せ場か。ここはイイ場面だが、竹中半兵衛は、官兵衛が救出される前に亡くなっているので、ここも創作。

とにかくこれだけでは面白いところが少なすぎ。吉川英治にも失敗作はあったのだとわかったのが収穫。