気象が勝敗を決めた

熊谷直『気象が勝敗を決めた 近現代戦に見る自然現象と戦争』光人社、2002


太平洋戦争(主に日本側、アメリカ側の状況についても少し)を中心に気象と戦争の関係について書かれた本。著者は、昭和11年生まれ、航空自衛隊で高射部隊に勤務し、平成3年術科学校教育部長で退官とあるので、最終的には2等空佐か。戦史、戦術教育にも長く携わっていた人なので、この本のテーマには適切な著者。

太平洋戦争では、少なくとも開戦時には、陸海軍とも、特に海軍は太平洋地域全体について、気象観測を組織的に行う態勢ができていなかった。陸軍は、兵要地誌作成の一環として、気象情報の収集も部分的には行っていたが、それでも北方、中国戦線が中心で、南方に関する気象情報収集にはあまり手が回っていなかった。また海軍は、もともと気象情報に大きな関心を払っていなかった。海軍省の水路部がこの任務にあたっていたが、海軍全体として気象に対する関心は薄く、組織的な気象観測をやっていなかった。

太平洋戦争当時で、海軍が気象に関心をほとんど持っていなかったというのは信じがたい話だが、その程度の態勢しかなかったのは事実。実際には、船と飛行機の活動には詳細な気象情報が不可欠だったので、陸海軍の気象への認識不足はたちまち問題になってくる。

アメリカは、日本よりははるかに気象観測に注力していて、特に日本本土爆撃に際しては、必ず気象観測機を日本各地に飛ばしており、ラジオゾンデも使っていた。日本もラジオゾンデはもっていたが、通信機は貴重品で、性能も劣っており、アメリカほど活用することはできなかった。

太平洋戦争以外にも、戊辰戦争、日清、日露戦争朝鮮戦争湾岸戦争などにおける気象と戦争の関係についても述べられているが、個々のエピソードを取り出したというレベル。特に昔の戦争では、正確な気象データがないのだから仕方ないといえば仕方ない。

日米両軍が気象観測について、どのような組織と態勢で臨んでいたかについて、もうちょっと詳しく書いてもらえるとよかったが、気象と戦争についての一般的な読み物としてはおもしろい。沖縄戦への気象の影響の部分は細かく書かれていて参考になった。