兵士に告ぐ

杉山隆男『兵士に告ぐ』小学館、2007


杉山隆男自衛隊もの第4巻。これは「陸」のおはなし。

多くのページが、新編の「西部方面普通科連隊」にあてられている。この部隊が、陸上自衛隊の中でどれだけ特別なのかということがよくわかる。しかし、その精鋭部隊も、想定している島への上陸訓練は常に出来ているわけではない。演習場がそういうところにないからだ。

この部隊の取材を通じて、米軍との関係や、米軍との違いについても細かく言及されている。さすがは米軍で、大ざっぱなところはあっても、直接生死に関わるようなところはきちんと締めている。

もうひとつの取材先が、北海道倶知安町にあった二十九普通科連隊。ここは陸自再編のあおりで連隊が廃止され、隊員はバラバラに他の部隊に転属させられたところ。このシリーズでは、めずらしく精鋭ではない、部隊のお荷物になっている隊員が取り上げられている。かつてはたくさんいた、落ちこぼれの兵隊が少なくなり、曹士にも大卒者が増えている。社会の変化は確実に自衛隊にも影響しているのだ。

イラク派遣や、それをめぐる家族との葛藤など、細かい襞もきちんと描かれているところは、シリーズの他の巻と同じ。読んでいる方としては、自衛隊の中の「できる人」の話も知りたいが、「平均的」な自衛隊員のこともよく知りたい。海空の巻とはちょっと違って、この巻では、普通の人たちにもよく目を向けていて、シリーズの中でも好感をもてる出来。