兵士に聞け

杉山隆男『兵士に聞け』、新潮社、1995


杉山隆男の一連の自衛隊ルポルタージュの最初の巻。評判通り、非常によく書けている本。

自らを「日陰者」と呼ぶ自衛隊(この本が書かれた、1990年代半ばの防大卒業式での校長あいさつでも、まだそういうことを言っている)の自己認識から始まって、レンジャー訓練、護衛艦はたかぜ、奥尻島レーダーサイト、カンボジア派遣PKO部隊が取材対象。

広報係の紹介で通り一遍のことを見て書くのではなく、隊員ひとりひとり、それも船なら幹部だけではなく、曹士のところに行って、よく話を聞いている。奥尻島レーダーサイトのような隊員の赴任希望がほとんどない僻地に出かけて、地元と自衛隊の距離感を測って書かれた章もよい。

最後の章でカンボジアPKO(この時には、カンボジアしかPKOの派遣がなかったのだ)を持ってきたことで、訓練ではない、「実戦」に直面して自衛隊が何を見たのか、参加した隊員はどう変わったのか、同じ部隊でもPKOに参加した者と参加せずに残った者との距離感はどうなったのか、という実戦経験の影響を書いている。この部分が末尾におかれたことで、自衛隊に何が欠けているのか(それは、レンジャー訓練の章でもある程度言及されているが)について、論点がはっきりした。

この本の後に出た著者の自衛隊ものもひととおり読む必要があると痛感。もうちょっと早く読んでおけばよかった。