ロッキード・マーティン 巨大軍需企業の内幕

ウィリアム・D・ハートゥング(玉置悟訳)『ロッキード・マーティン 巨大軍需企業の内幕』、草思社、2012


ロッキード・マーティン社の黒歴史についての内幕本。原題は、"Prophets of War: Lockheed Martin and the Making of the Military-Industrial Complex." ロッキード社の創立当時から現代までの歴史を扱っているが、ロッキード社の事業全体を体系的に紹介する本というわけではない。ロッキード社が、航空機製造会社から現在の防衛、宇宙、航空を含む政府調達全体を対象とするコングロマリットになっていく過程と、その中でロッキード社が軍、政治家とどのように結託して、政府から高額の費用を引き出してきたかということの歴史を描く。

著者は、「ニューアメリカ財団」上席研究員。他の邦訳書に『ブッシュの戦争株式会社』があるということなので、ブッシュ政権や右派に批判的な人らしいということはわかるのだが、このような本の場合、著者の立ち位置は重要なので、著者紹介はもっと詳細に書かれているべき。

軍産複合体」よりは、「鉄の三角同盟」の方がよくあてはまるが、ロッキード社と軍の慣れ合いには政治家、特にロッキード社が事業拠点としている場所を選挙区にしている政治家がガチガチの同盟を組んでいて、内部告発者に圧力をかけて情報から切り離したり、言うことを聞かない政治家(上院議員のプロキシマイヤーら)の抵抗を乗り越えて計画を強引に押し通していくプロセスがうまく書かれている。特にC-5Aギャラクシー計画が半ば失敗しているのに無理やり推進された部分は詳細に書かれていて、防衛産業が政府調達からどのように儲けているかがよくわかるようになっている。

現在金食い虫として問題になっているF-35ライトニングII計画にも、最初の章で言及されているが、問題があっても、表面上トラブルは小さいとか、ないとかいうことにして、とにかくどんどん調達計画を推し進めていく手口はC-5Aの場合とあまり変わらないだろう。

ただ、ロッキード・マーティンの悪行についての指摘だけでなく、どういう事業展開を行ってきて、どの事業からどのくらいの収益をあげているのかというロッキード・マーティン社の全体像がいまひとつよくわからない。また、ボーイングレイセオンなど、他の防衛、航空、宇宙企業との比較についても、より詳しく言及してほしかった。

翻訳者の訳注は、防衛、航空産業の分野に詳しくない読者にも役にたつもので、適切。