相羽奈美の犬(全)

松田洋子『相羽奈美の犬』(全)エンターブレイン、2013


このマンガ、1巻はぶんか社から出たのだが、2巻は紙では出ず、電子書籍のみの刊行という中途半端なことになっていたものが、エンターブレインから1巻、2巻の合本として、『相羽奈美の犬』(全)という形で出版されたというややこしいもの。作者のあとがきなどは何もないので事情はよくわからないが、1巻が全然売れないので2巻を出せなくなったのではないかと推量する。

いずれにせよ、こういう形でちゃんと本になってくれてよかった。装丁は昔のわら半紙に近い感じの、ベージュに近い感じの表紙で、1巻とはかなり雰囲気が変わっている。ちょっと安っぽい感じもするが、このマンガの内容にはちょうどよく合っている。

で、2巻に相当する部分の内容がどうなったのかが問題。犬にされてしまう主人公のオンはすっかり飼い主の相羽奈美に可愛がられるようになるのだが、飼い主の奈美の家は金持ちでありながらかなりとんでもないもの。父親は人を差し向けて娘を殺そうとする。それを知って絶望した奈美は、オンに「わたしを犬にして」と頼む(この時点で、奈美は、オンが噛み付いた人間を犬にする特殊能力を持つことを知っている)。

奈美は、父親の本当の子供ではなく、それで父親に憎まれていたのだが、父親はオンに噛まれて犬になってしまう。父親の憎しみは消え、オンを犬にしていたネン(父親に首を切られて犬神にされていた、犬の亡霊)も消えてしまう。それでオンは人間に戻るのでしたというオチ。

ハッピーエンドのようにも見えるが、もともとオンは奈美をストーキングするしか値打ちのない人間で、それが犬にされて喜びを感じていたのだから、主人公の立場からは全然ハッピーではない。奈美は、ボーイフレンドと楽しく生活して終わりである。もtもとブラックな話だから、このくらいがあたりまえなのだろうが、美少女はハッピーになり、ストーカーの怨念は消えないところに世の摂理を感じる。