海軍(1963)

「海軍」、北大路欣也三田佳子ほか出演、村山新治監督、東映、1963


この前、木下恵介の「陸軍」を見たのだが、こっちはまるっきり別の映画。1943年公開の松竹版があるのだが、戦後のこちらのバージョンしか見られなかった。

戦後18年もたってから作られたからなのか、これはほぼ青春恋愛映画。北大路欣也が、海軍軍人になる主人公。兵学校を一緒に受験する友人が千葉真一。友人のほうは試験に落第して画家になってしまうが、北大路欣也は立派な海軍軍人。この2人の対比で話が進行する。北大路欣也の男らしさに比べて、千葉真一はかなりナヨナヨした役になっている。千葉真一はこういう役を当てられていたのか。

千葉真一の妹が三田佳子で、これが北大路欣也に惚れている。しかし海軍軍人北大路欣也は、この求愛を受け入れない。死ぬかもしれないので、君の気持ちは受け取れないという中途半端な態度。三田佳子は、積極的に押しまくるのだが、結局会話以上の関係にはならないまま。

北大路欣也は、真珠湾攻撃に特殊潜航艇の乗員として出撃することになるので、三田佳子とは泣き別れ。特殊潜航艇はチラリとしか出てこないままで、いきなり葬列の場面になる。軍楽隊と、銃兵の列、衣冠束帯の人、白い布がかかっただけの荷車、九軍神の遺影を持つ兵学校生徒、その後に遺族が歩いていく。この場面はちゃんと事実の再現映像になっている。

最後は遺族、親戚、友人一同の前で遺書が読み上げられる。特定の個人にあてた遺書というものはないのだ。母親役の杉村春子が一人で泣き崩れ、三田佳子桜島を仰いで思い出を語るという場面でおしまい。

脚本は新藤兼人だが、平和がどうのこうのと言った言葉は全然出てこない。まだ九軍神を尊敬する人がたくさんいたからなのか、英雄に女々しいことを言わせるわけにはいかなかったからなのかは、よくわからない。戦争万歳と戦争反対のどちらにも行かずに、英雄の話を描こうとすると、恋愛のない恋愛映画みたいな変なものにせざるを得なかったのか。見ていて消化不良になる映画。