ネットのバカ

中川淳一郎『ネットのバカ』新潮新書、2013


タイトルは明らかに、ニコラス・カー『ネット・バカ』青土社、2010のもじりである。ただし内容にはあまり共通点はない。同じ著者の『ウェブはバカと暇人のもの光文社新書、2009の続編である。

基本的な主張は同じで、「普通の人が普通にネットをやっているのがあたりまえになれば、ネットは普通の人の世界、つまりバカの世界になりますよ」というおはなし。

ネットは「少数の勝者が一人勝ちする世界」「一般人は特定分野のトップである人だけがチャンスをとれる」「PV稼ぎと拡散に多くの人が必死になるのは、儲けるため、人気者になりたいため」という、まあ納得の行く話が多くの事例で展開される。著者の言っていることに特別の新規性はなく、奇矯な内容もないのだが、ネット上の事件を幅広くカバーしていること、できるだけ数字を出して全体像を示そうとしていること、著者がマスメディアとネットメディアの両方の世界に身をおいている人なので、業界内事情によく通じていることが、この本に説得力を持たせている理由。

なので、事実として教えられるところは多かった。2012年の日本の広告費の媒体別内訳では、ネットはテレビの次、8700億円で、テレビの約半分の規模になっており、3位の新聞は6200億円なので、すでに新聞は抜かれていて、しかも前年比伸び率でもネットは新聞より高い。雑誌とラジオはさらに悲惨で、雑誌は新聞の4割、ラジオは雑誌の5割の規模しかなく、ラジオの広告費は前年比でマイナス。新聞はまだしばらくは生きているかもしれないが、雑誌とラジオは敗戦処理の段階に入ったのかもしれない。

また、著者がネットに費やしている時間が大変。それが仕事だからと言って済ませられるようなものではなく、休日は年末年始の休み以外はなし、朝起きてから夜飲みに行くまでずっとネット漬けで、編集、寄稿するネットメディアは10、関与する記事は月に1000本だと言っている。このくらいやらないと、フリーでネットを本業にするのはむずかしいということ。

著者は、匿名が基本のネットメディアと実名が基本のネットメディアで使われ方がどう違うかについて説明しているのだが、ある種の人については、実名であることによる抑制は働かないとも書いている。まあ、実名でSNSをやって、しかも危ないことを書くという神経はよくわからないが、自分のことをずっとSNSで晒し続けていると、そのへんの感覚も麻痺してくるらしい。